【トンボロ活動記vol.4】100年以上続く南島原市の酒蔵 吉田屋さんを取材

出島トンボロは地域商社として、“長崎のオンリーワンづくり”を掲げている―――。
長崎の魅力を余すところなくお伝えするために始まった「トンボロ活動記」。
今回は、長崎県南島原市にある大正6年創業の酒蔵吉田屋さんに、モノづくりに対するこだわりを取材しました。
雲仙の伏流水が湧き出る自家井戸の水を仕込み水に使用し、東京農大花酵母研究会の花酵母を使ってもろみを仕込み、今では全国でも数えるほどしか残っていない「はねぎ搾り」という伝統製法で日本酒を造っています。

地域に根差して107年。南島原の酒蔵「吉田屋」

四代目である吉田嘉明さん。吉田屋は大正6年創業で100年以上の歴史があります。
家業を継ぐ前は、今造っているような特定名称酒(原料や精米歩合(お米を精米する割合)など製法で分類された日本酒)ではなく、普通酒(原料や精米歩合に決まりがなく、比較的リーズナブルな日常酒)を中心とした酒造りをされていました。

嘉明さんは家業を継ぐために東京農大で日本酒作りや酵母について学びます。
当時、日本酒は吟醸酒ブームが出始めた頃。大学で酒造りを学んでいる間、今の日本酒の時代い流れをみて「実家でやっていることと違う方向に世の中にいっているのでは?・・・」と感じることも。
そんな中、東京で吟醸酒を扱っている酒屋に行って、あるお酒を飲んだ。
それは、石川県の菊姫の大吟醸。一口飲んで、感銘を受けた。
『こういう素晴らしいお酒を造りたい』と強く思ったとのこと。
これがきっかけで、大学卒業後は、どこかで修行も考えたが一念発起して家業を継ぐために南島原の実家に戻ります。

高齢化とノウハウ0からのスタート

実家に戻り、酒造りがスタートすると同時に、大きな壁にぶつかります。
それは、祖父や父の代から一緒に酒造りをしてきた仲間達の高齢化問題。
昔からずっと二人三脚でやってきたこともあり、1人がやめると他の人も同じように辞めてしまい、5人いたスタッフが全員やめてしまいました。
残ったのは父と吉田さんと杜氏の3名。
本来であれば、この時点で酒造りの経営そのものを見直すレベル。
すごいのは、この状況でもなお「これまでの普通酒ではなく、あのとき感銘を受けた新しい分野の酒造りにチャレンジする」ということを決意されたこと!
ノウハウはもちろんゼロ。誰も作り方を知りませんでした。

そんなとき、もともと知り合いだった福岡の国税局に所属する鑑定家の先生がいて、蔵にあったはねぎを見て言いました。
「これはとても貴重で珍しい。これを使えば、素晴らしい日本酒が造れるのでは?」
それが、はねぎ造りのきっかけでした。
作り方も知っている先生は通いで、時には泊まり込みで来てくれて、一緒に試行錯誤しながら酒造りに協力してくれました。
何度も試行錯誤を繰り返し、長年の研究の末ようやく日本国内でもわずかしかない”はねぎ搾り”製法を復活。
そこに、学生時代の研究室が発見した”花酵母”を使って、はねぎで絞るというオリジナルの製法を開発し、独自性のある日本酒作りに成功しました。更に、はじめて作った吟醸酒が鑑評会で入賞!
たしかな手ごたえを感じました。

※はねぎ搾り
「撥ね木」と呼ばれる巨木(約8m)を用い、てこの原理で圧搾する製法が”はねぎ搾り”
並大抵ではない労力と低効率のため、製造方法は機械化が中心。

地域に根差すからこそできること

新しい酒造りと同時にチャレンジしていたことがもうひとつあります。
それは、「有家蔵めぐり」という地域との繋がりを促すイベントの主催です。
昔、周辺地域には酒蔵が2軒・味噌蔵が4軒・そうめん蔵が300軒以上ありました。
中には吉田屋さんのように第二次世界大戦の被害に遭いながらも耐え忍んだ蔵もあります。そこで、蔵の町保存会を立ち上げて蔵と人を繋ぐことを目的とし、各蔵を周遊して見学やお買い物を楽しめるイベント“蔵めぐり”を開催しました。
5軒で始めて、吉田屋の酒蔵ではクラシックコンサートを実施し、大盛況。
多くのメディアにも取り上げてもらいました。
それから小売店だけでなく地域のお客様にも吉田屋の日本酒を知って直接買っていただけるお客様が増えていきました。
はじめは普通酒も作っていましたが、今では特定名称酒だけの取り扱いに。

大切にしている心得「和醸良酒」と「伝統と革新」

花酵母を使ってはねぎで絞る、というのは技術的な部分でのこだわりはありますが、一番大切なのは、和醸良酒。
和とは協調や協力関係を維持すること。造る人、売る人、飲む人みんなの和が繋がって一つの世界を作ります。この人の和が一番大切なもの。
そして、もう一つ意識しているのは、伝統を守るために変化し続けること。
伝統を守るためには、常に変化し続けないといけない。変化し続けることが伝統を守る唯一の方法。これが真理だろうなと考え、日々研鑽を重ねています。
はねぎ搾りという伝統を復活させ、花酵母という新しいものにチャレンジしてきたが、
ただそれだけが全てではないと思っています。
今のトレンドから言うとよりフレッシュでより微発砲なものなどとなってくると、はねぎとは違うアプローチが求められます。
時代時代に合った生き方をしないといけないんですよね。

今回の取材では、多くの気づきと勇気をいただきました。
吉田屋さんの日本酒は、私たちも美味しくいただいています。
出島トンボロが東京で開催した長崎の食を感じてもらうイベントでもふるまわせていただき、大盛況でした。

吉田屋さんでは、日本酒や甘酒などを直接購入できます。
また、蔵内にカフェもオープンされていて、先代たちの貴重なコレクションやレトロなアイテムに囲まれたとても素敵な空間です。
ぜひ、立ち寄られてみてください!

はねぎ搾りの酒造吉田屋

https://bansho.info/infomation.html

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